悩み生きる楽しさを☆

砂漠の縞馬思いを綴る

インセンスと縞馬の日常

トップページ > その他雑記 > 雪女

2005年8月 3日 00:55

いつまで経っても完成しない小説・・・。

雪女

「ねぇ、私の秘密教えてあげようか...。私ってねぇ、雪女なんだよ。」まさか雪女のモノとは思えない温かな胸を脇腹に押し当てて、耳元に吐息を残すような囁き声で彼女は僕にそういって微笑むと、首筋に軽いキスをした。

窓の外には止む気配すら見せない雪が静かに舞い続けている。
時折吹き付ける風が窓を叩く音以外何も聞こえない、静寂が支配する空間で彼女の言葉は青白い魔法を帯びていた。
少なくとも僕がその魔法に関わってしまったのは間違いようのない事実だったし、結局最後までその魔法の意味を知ることが出来なかったわけだが、今思えば虚偽が真実に変わる瞬間に立ち会ってしまったのかもしれない。
虚偽で溢れたこの時代に真実を見つけることは非常に困難で、
僕らはどうしてもすぐ投げ出してしまいがちになるけれど、本当は身近に、それも沢山の真実があるのかも知れない。

僕は何も答えなかった。
いや答えれなかったと言うのが正しいだろう。
ズルイ男だと思った。
それよりも臆病者だと自分を罵った。

酷く動揺した自分と向き合う為に、眼を閉じたままゆっくりと深呼吸をし、彼女について僕が知りうる事実について考えてみて愕然とすることになる。

何も知らなかった。そう、住んでいる場所、年齢、仕事、そして名前さえも......。
確か名前くらいは聞いたはずなのだが、何故だか記憶の中には残っておらず、今この場で彼女に尋ねることは、見えざる意思に背く気がして喉元までかかった疑問符を寸でのところで読点に置き換えた。
それは自分自身の意思ではなかったのかもしれないが今思えば、きっとそれも魔法の続きだったのだろう。

解かっていた。思考は混乱を招き、混乱はその魔法をさらに強める結果になる。
既に立ち会いし者としてその事実をを受け入れざるをえないことも。
ただ、冗談を言うにはあまりにも真剣すぎたその瞳が僕を戸惑わせ更なる混乱へと誘い、袋小路へと導くのだった。
僕にだって雪女の物語を知らないわけじゃないし、それが実際には物語でいわゆるフィクションだと言うことも理解していたしそんな冗談めいた言葉に左右されるほどロマンチストでもなかった。
実際子供じゃないんだから、今までいろんな娘とも寝てきたわけで、ベッドの中で彼女達の訳の分からない冗談や途方もない未来の話を聞いてあげるのはお手の物だったし、勿論その手の話で悩まされたことなんて一度もなかった。
冷たいとか、冷めていると言われればそれまでなのだけど娘達はその時々の気分次第で女優顔負けの名演技を軽々とこなしてしまうのだから、僕自身はそんな素早い変わり身の演技なんてこなせっこないわけで、結局彼女達の一人芝居の観客になってしまうのだった。
でも何故だろう、この時ばかりは台詞を忘れた役者のように呆然と、舞台の上でスポットライトに照らされている自分がいた。

真実を見極めようと彼女のいたずらっぽい瞳を見つめてみたが僕の瞳には何も映らず、彼女は子猫のような瞳をしばたかせて不思議そうにみつめかえすと僕にそっとキスをしてそのまま胸の中で静かな寝息をたてはじめてしまった。

そして静寂の中に、魔法にかけられた僕だけが取り残されてしまったのだった。